「違う!この人は産土凪なの!似てるけど、あなたが求める人とは違うんだから!
お願いだからこれ以上危害を加えないで!」
あたしは一生懸命に訴えてみたけど、黒い『ありす』は、聞く耳すら持たないみたいだった。
《わたくしひとりのものにならぬならば……共に同じ世界に参りましょうぞ》
ざわり、と黒髪が逆立った。
《いかん!ものすごい力じゃ……このままでは危ないぞよ!
杏子殿、わしが気を引くゆえに、凪殿を連れて入り口まで一気に走るんじゃ!》
アプレクターじいちゃんが緊迫感に満ちた声音で言ったけど、脱力した人間を運ぶのは難しいんだよね。
意識があるときよりも、何倍も負担が掛かるから。
でも、たとえ肩が外れたって、ナギを運んで逃げきってみせる!!
あたしはアプレクターじいちゃんに頷くと、ナギを背負って……ひっくり返りそうになったから、代わりに前で抱きかかえた。
《行きなされっ!》
アプレクターじいちゃんの合図と同時に、持てる力を全て足に溜めて猛ダッシュをかけた。



