ナギの口から、微かに声が漏れたから。
あたしは思わず視線をナギの顔に向けた。
「ナギ……気がついたの!?」
《杏子殿、それどころではないて!!》
アプレクターじいちゃんの叫びに、あたしはハッと顔を上げた。
殆ど反射的なものだったと思う。
鋭く空を切って飛んできた何かをかわせたのは。
鋭利な物は岩に突き刺さって止まった。
あたしの髪をかすめたそれは、簪だった。
《なぜ……なぜわたくしだけを見てくださいませんの?知らない女を見ているのですか?》
次に聴こえた声音は、さっきの少女と全く違う……。
大人の女性のものだった。
何かと思って振り向けば。
『ありす』は……
真っ直ぐで艶やかな黒髪の、黄色い肌の姿に変わっていた。
着ているのは、紛れもなく和服。
頭に挿した簪をさっき投げたからか、髪は解けてすこし乱れてた。
顔は俯いたままだから、表情は判らない。
けれど、今までとは比べものにならない程のおどろおどろしい憎悪を感じ取れた。



