《なかなか美味であった》
爪楊枝で歯をほじってるアプレクターじいちゃんの傍らで、あたしはナギに必死に呼びかけてみた。
アプレクターじいちゃんは10分と掛からずに岩を退けてくれたけど、その下敷きになってたナギは酷い出血だった。
顔は青白くて息は今にも消え入りそうで、脈も弱い。
「ナギ!!やだ……死なないでっ!」
信じたくなかった。
あの傲岸不遜で唯我独尊で、いつもいつも自信に溢れて人を馬鹿にする……。
そのナギが……
あたしを馬鹿にしたり、甘い言葉を囁いた唇から吐き出される息は、もう微かにしか感じられない。
あたしをおかしくさせた温もりは、どんどん失われて冷たくなってく。
見つめられただけで逸らしたくなった瞳は、開けられる事がなくて。
やだ……いやだよ!!
あたしは持ってる布でも足りなくて、スカートを裂いて脚やわき腹の血止めをしようとしたけど、他にもどんどん血が出て間に合わない。
止まらない。



