約束の時間は一応10時って事だから、あたしは部屋に戻る前に絹枝さんのお世話をする。
「あら、まあおはよう御座います。
今日はよいお天気で気持ちのよい朝ですねえ」
絹枝さんはあたしが部屋に入る前にもう目が覚めていたらしく、上半身を軽く起こしてベッドの枠に寄りかかってた。
その表情は昨日とは打って変わって穏やかだった。
「昨日ここにお連れ頂いてから、ほんに体調がよいのです。
やはり思い出深い土地に来ると違います。ありがとうございます」
あたしが洗面器にお湯を張って顔を洗うお手伝いをしている最中、絹枝さんはそう言って何度も頭を下げてきた。
ここに来たのは一昨日なんだけど、どうも絹枝さんは昨日発作が頻発に起きたものだから、たぶんその記憶がなくて勘違いしてるんだろうな。
でも、敢えてその言葉尻をとらえる事もないよね。
痴呆症で一番辛いのは本人らしいし。
本人は状況がよく理解出来てないのにキツく叱ったりすると、恐怖心を植え付けるだけで、余計に症状が酷くなるから。



