忠志さんは外国にいたの?
もしかして、あの少女に会うためにそこに戻ってしまったとしたら?
あたしはあまりしたくなかったけど、どうしても確かめたくて仕方なかった。
「それよりも、忠志さまは遅うございますわね。絹枝さまをこんなにお待たせして」
あたしの言葉を聴いた少女の絹枝さんは……
一瞬手を止めたけど、後は変わらずに薔薇を切り摘み続けた。
「忠志さまはお戻りになるのは難しいお立場なのよ。軽々しくそのように言わないでちょうだい!」
絹枝さんには珍しく、ピシリとあたしを叱りつけてきた。
少女の時も普段も温厚で、滅多に注意もしない人が声を荒げて。
戻るのが難しい?
お仕事の関係か何かで?
あたしは絹枝さんに謝っておいたけど、彼女はそれ以来なんだかだんまりになってしまって。
口で言うほどこの薔薇を好きじゃないのかな?
なんだかそんな印象を受けた。
そりゃあ、旦那が他の女の子から贈られた花をいつまでも後生大事にしてるなんて。
あたしだって気分が良くないだろうな。



