そして見えてきたのは。
川を渡る橋。
「…トキったら!」
あたしがハッと気がつくと、絹枝さんの顔が目の前にあった。
「トキったらどうしたの?涙なんか流して。
ぼんやりしていてトゲでも刺してしまったの?」
絹枝さんに指摘されて初めて、あたしは自分が泣いてるんだって気付いた。
頬をぬらす温かいものは確かに、あたしが流したもの。
もう体の熱は消えていたし、あの異国の光景も見えない。
……異国。
確かにあれは異国だった。
歩く人が白色人だらけなんて、霧の石造りの街なんて、飛び交うのが英語だらけなんて。
日本じゃあり得ない。
あれは……
この薔薇の記憶。
世代を隔てて受け継がれた、悲しみの記憶なんだ。
あたしはそう確信できた。
たぶん忠志さんがあの少女から貰った薔薇を植えたのが、この薔薇たち。
1代目が萎れても、株分けとかでずっと紡がれてきた思い。
忠志さんが思いを込めて世話したのも当然だよね、そんな思い出があるなら。



