「いい香り……あの方の一番好きな品種なのよ。
なんでも思い出深いお花だとか仰ってたわ」
忠志さんの思い出深い花?
あたしは何だか興味が湧いて、手近な花びらに触れてみた。
―ドクン―
えっ!?
なんで……
なんで目の奥が急に熱くなるの!?
アプレクターの気配は微塵もないのに。
あたしが止めようとしても、目の奥から広がってゆく熱が止められない。
細胞のひとつひとつが疼く不快感と、暴れまわる熱。
あたしはいつものように歯を食いしばり、瞼をぎゅうっと閉じてそれに耐えた。
暴走しそうな力の手綱を必死に手繰り寄せた刹那――。
あたしの体中が頼りない感覚に陥って、まるで空中を漂う風船みたいに捉えようのない物になったように思えた。
――そうして。
あたしが目を開けてみると。
目の前にあったのは、薔薇園なんかじゃなかった。



