オトコ嫌いなあたしと、オンナ嫌いなあなた。【完結】




枝は何度となく大きくしなったけど、あたしはお父さんにその葡萄を食べてもらいたくて。


あと少しで手が届きそうだったとき、足場の枝が体重を支えきれずに大きくたわんで折れ、手も汗で滑って枝から離れちゃったんだ。


一瞬だけふわりと浮いた感覚に戸惑うだけで、あたしはそのあとに起こり得る事態なんか全く想像すらできなかった。

まだ子どもだったから、仕方なかったけど。


助けろ!と誰かが叫んだ声が耳に入った刹那……


あたしはズシンと少し重い衝撃を体全体に感じて、何が起きたのか分からないまんま見上げると。


あたしを抱き止めてくれたのは、お父さんだって分かった。


「仕方ないおてんばだな」


逆光で暗い陰だったから、お父さんがどんな表情をしてたのか分からない。

でも、その低い声はいつもと違って優しくて。


腕も力強くて、温もりも匂いも。


全部今でも鮮やかに思い出せる。


そんな思い出しかないあたしでもお父さんが好きなんだから、絹枝さんは尚更だよね。