「トキ……わたくしを書斎隣のお部屋に連れて行ってちょうだい」
エントランスから出る直前に、足を止めた絹枝さんが強い調子でそう言ってきた。
書斎の隣といえば。
ご主人様が使う、いちばん大きなお部屋。
昨日(というかおとといだけど)に掃除したとき、広さはそれほどでもなかったけど、その造りと豪儀さに目を見張っちゃった。
別荘の個人部屋と言うのに、ガラス張り温室も兼ねたのサンルームとテラスが付いていて、南国風の花々が咲き乱れ、美味しそうな果実がたわわに実ってたし。
いつ誰が整えたのかわからないけど、本番ヨーロッパ顔負けのガーデニングが施されてた。
サンルームは十畳間位の広さしかなかったけど、ハーブ園の側には木製のテーブルとイスが置かれてた。
もとは白かっただろうそのテーブルの塗装もはげ落ちて、晒された木目もかなり傷み朽ち始めてた。
そのテーブルのもとの姿を想像してみれば、60年という月日がどんなに長いものなのか、ほんのちょっぴり解る気がした。



