「そういえばそうでしたね。
あんなに見事に咲いた薔薇園は見たことがありませんでしたから、それは大切にお手入れされていらっしゃるようで」
つ、疲れる。
昭和初期のお嬢様に使用人がどんな言葉遣いをしていたのか、トキさんと絹枝さんはどんな関係だったのか。
乏しい想像力と僅かな情報だけで喋らなきゃいけないから、一言を選ぶのにも時間がかかっちゃって。
あたしはパープルのドレスを広げながら、ため息をつきそうになって。
慌てて口をつぐんだ。
それにしても、デザインは古いけど、総シルクとたっぷりのレースで出来たドレスですよ、これは。
戦争末期で物資が不足してた時期に、こんな贅沢品を身に着けられる位に良家の娘さんだったんだ。
きっと何の苦労も知らずに、忠司さんと結婚したんだろうな。
そういえば、あたしはふと気になった。
絹枝さんは
「夫に逢わせてください」。
孫娘の涼花さんは
「祖父のことはあまり知りませんが、祖母を祖父に逢わせてください」
と言ったけど。



