「まあ! 忠司(ただし)さまったら。いつこちらにいらしたんですの?」
絹枝さんがそう言ったのは……
ナギに向かってだった。
そして、絹枝さんはテーブルに置いた巾着袋から一冊の古ぼけた本を取り出した。
「ほら、あなたが贈ってくださったこれも大切にしていますわ。
難しいですけども毎晩毎晩辞書を片手に読んでいますのよ。
今は敵国の言葉だからと禁止されてますから、誰にも訊けませんし。
ですから、どうしてもわからない部分がありまして……。
よろしければ教えてくださいませんか?」
絹枝さんが手にしていた本は……
「Alice's Adventures in Wanderland」
英語が苦手なあたしでも、あまりにも有名なあのタイトルだとすぐにわかった。
「わかりました。どの部分が解らないのですか?」
驚いたあ。
ナギが相手に合わせるなんて、夢にも思わなかったから。
「あの……こちらです」
絹枝さんはテーブルの上に本を広げると、恥ずかしそうに赤線を引いた部分を指差した。



