「うん、ナギ……ありがとう」



あたしがそう言うと、右手に手応えがあった。


すこし冷たい指先……


だけど手のひらは温かい。


あたしより大きくて力強い手。



ナギの手だって、見なくても解った。



あたしは目を閉じて、キュッとすこしだけ力を入れてみた。


ナギの指も、わずかにだけどそれに応えるように力が籠もる。


春の太陽の光に包まれて、あたしたちは2人きりしかいないみたい。



……ナギは何も言わないけど。



あたしは十分だった。



言葉にしなくても、手のひらから伝わってくるものがあるから。



どうか、いつまでもこんな時が続きますように。



あたしはその時そう願ったけど。




あたしは、本当になにも知らなかった。




ナギがどうしてそんな言葉をあたしに言ったのか。




こんなにも美しい季節を見せてくれたのか。




本当に、なにも――。