くい、とわずかに腕を引っ張られた。
顔を上げてみれば、ナギはあたしの手を掴んでずんずんと歩き出した。
また自分のペースで歩くから、あたしは着いてくのがやっとで。
「ちょっと、ナギっ……速いよ!」
あたしが息を切らしながら抗議したすぐ後に足を止めた。
ナギはあたしの手を引っ張ったけど、それは前に突き出すような形で。
乱暴ねと抗議しようと開こうとしたあたしの口は、目の前に広がる光景にただポカンと開ける事しか出来ない。
あたしとナギの目前にあったのは、堤防沿いに植えられた満開の桜と菜の花と、名前も知らない数々の花たち。
澄みきって晴れ渡った青空の下で、燦然と輝く川面に照らされてきらきらと輝いてた。
「きれい……」
あたしが思わずつぶやくと、隣にいるナギがこう言った。
「まだ朝早い時間だから見られる光景だ。
杏子、おまえは忘れるな。
春はこんなにも美しい季節だと言うことを」



