バレンタインでああなったのは、きっとその場で適当な相手がいなかったから……
あたしは考えれば考えるほど自分がどんどん惨めになって、無意識のうちに下唇をキュッと噛んだ。
……嫌だ。
今までずっと我慢してきた。
ナギの毒舌も、素っ気ない態度も、むちゃくちゃな要求も、冷たく突き放す行動も。
全てお給料とナギへの想いのために、耐えて頑張ってきたけど。
もう、我慢の限界だった。
本当に大切な相手なら、普段から少しくらいは思いやってくれるはず……だよね?
「もういい!あたしはナギにとって所詮はどうでもいい存在なんだよね!
事務所も辞めればいいんでしょ!
もう二度とあんたの目の前に現れないから、安心して!」
あたしはそうナギに怒鳴りつけてから、サンダルも履かず外に飛び出した。
夜明けからそれほど経ってないアスファルトは、靴下を履いてても足に冷たい。
とにかくがむしゃらに走りつづけてあたしが着いたのは……。
一番近い川の河川敷だった。



