紅葉の君と産土親王の出逢いは半ば伝説めいた言い伝えとなり、私の元を訪れる若い男女も引きも切らず。

その中で婚姻した夫婦は、たぶん私の伸ばした枝の数よりも多かったろう。

結ばれたからといって、むろん幸せな結婚ばかりとは限らなかったが、私は縁結びの神木としても知られるようになった。


そういえば、紅葉の君で思い出した。


紅葉の君は、私と話すときに目が淡く輝いた。


水色。


雨上がりの澄んだ池よりも美しい青色だった。


産土親王の瞳は淡い茶色と、二人は対をなしていた。


私のもとを訪れる人間たちはみな黒か焦げ茶色の目ばかりだったから、余計にその二人が印象深かったのかもしれない。


産土親王は世にも稀なる美貌の持ち主で、文武両道でありながら、驕らずに風雅を解し控えめながら芯の強い性格で。


噂だけでは艶聞は引きも切らずだったけど。


真実は北の方である紅葉の御方ただひとりを護り、生涯この御方だけを愛しぬいたのだ。


将来の天皇たる東宮以外にただ一人、一品の宮へと叙された。