風に聴いた噂によれば、私が護った幼子はさる高貴な方のご落胤という。
神隠しかと騒がれたものの、私の根元で紅葉に抱かれて無事であったからか、かの幼子は紅葉の君と呼ばれた。
紅葉の君は長ずるに従って、間隔は間遠になったものの。
花が咲く春と果実がなる秋には私に必ず会いに来た。
紅葉の君は、ふしぎと私の心をわかってくれた。
やんちゃざかりの幼子も、成長すれば花ざかりの美しい姫へと変貌を遂げて。
紅葉の君がさる親王さまに嫁ぐのだと聴いたのは、いつだったか。
紅葉の君の初恋の君だったという。
紅葉の君はさる親王さまの姫君だったけど、母君の身分が低いために正式な子として扱われずに、山里に置かれ育てられていた。
しかし、私もその初恋の君の事は知っていた。
紅葉の君よりいくつか年上であったが、緑なす艶やかな黒髪を結ったみずらが美しい、童(わらわ)姿の少年。
紅葉の君と少年は、私のもとで出逢ったのだから。
少年もまた、紅葉の君程ではないにせよ、私の心を解せた。



