母鹿は右足を喰いちぎられ、両目と片耳が使いものにならなくなっても。
血まみれのまま、子鹿のために通い続けた。
三本脚で不器用に歩きながら、段差や障害物の多い森の中を歩くのは大変だったろうに。
片耳の聴覚と嗅覚だけを頼りに、光を失った目で必死に子鹿を見つめ守り通した。
半年間の子育ての末、子鹿は徐々に育ってゆき。
春に生まれた子鹿は、秋になれば他の子鹿よりも大きく強く成長した。
そして、その子鹿は歩く事もままならぬ母鹿の横にずっと寄り添い、傷のために群れから見放された彼女を生涯かけて守り通した。
私が果実をつけるようになってしばらく経った頃。
赤い綿の着物を着た幼子が、森に迷い込んできた。
その子どもは泣いて泣いて……
泣きつかれて夜は私の足元で眠ってしまったから。
秋が深まって寒い時期だったから、私は子どもに落ち葉の布団をかけてあげ、食べ物として果実を落としておいた。
その子は助かり、それが私と人とのかかわりの始まりとなった。



