9日金曜日の朝6時まえ。
まだ朝靄にけぶる街中。
真冬の朝日の光は弱々しく、街の輪郭を儚げに浮かびあがらせるだけ。
まるで砂上の楼閣のようにぼんやりとしか見えない景色は、なぜだか心細さを助長させる。
あたしは昨日おろしたお金を持って、制服姿で日向家の門の前にいた。
もう1時間は待っているんだけど、家からは何の物音もしないし、灯りも点かない。
あたしは7時半ギリギリまで待とうと決めていたけど、なんだか心がぐらついてきそうだった。
もしかしたらこれは本当に単なる悪戯で、あたしひとりが空回りしているだけかも。
それとも本当の話だったとしても。
あたしの援助なんて余計なお世話なのかも。
そんな思いが少なからず胸の内にあったから。
「あら、もしかしたら杏子ちゃんじゃない?」
後ろから聴こえたのは、すこし野太いけど、柔らかくて優しい声。
振り向けば、高校生の息子がいるとは思えないくらいに若々しい姿の真樹子おばさんだった。
やっと会えた、とあたしは安心して全身の力が抜けそうだった。



