あたしは見逃さなかった。
小久保さんが一瞬だけ浮かべた複雑な表情を。
それは哀しみにも、諦めにも似た、なんとも言えない表情だった。
小久保さんは軽く頭を下げると、サンダルのペタペタ音を響かせながら街の闇に消えていった。
「さあさあ、何もないし散らかってるけど。遠慮なく上がってちょうだい」
美絵さんは特に気負うことも取り繕う事もせず、あたしたちを気軽にお家にあげてくれた。
レインボーハイツは2Kと小さな間取りで、そのうちのひと部屋は引きこもりの弟さんが使ってるから、美絵さんは寝こんでるお母さんと2人でひと部屋を使ってるみたい。
それも四畳半と決して広くはないけど、質素でもどことなく温かみのある生活空間だった。
「村田美絵の母でございます……このような見苦しいお姿で失礼いたします」
美絵さんのお母さんはわざわざ床から頭を上げて、丁寧な三つ指までついてくれて。
「母として不徳の致すところで……我が子ばかりが不幸に遭いながらもどうしてやる事もできず。誠に情けない母でございます」



