「あら正くん、こんばんは。今日夜勤はないの?」
美絵さんは先日「男なんか」と泣いてたはずなのに。
小久保さんには平気なのかな?
あたしとケンみたいなものなのかもしれないね。
こう言っちゃ失礼かもしれないけど、小久保さんは男性くささがないから、美絵さんも安心して今までご近所さんとして付き合って……。
……れ?
あたしはふっと奇妙な感覚にとらわれた。
小久保さんがマモル君をチラッと見た目……
あの目線は。
あのベランダであたしも感じた――
「こ、こんばんはです。……ちょ、ちょっと飲み物を買いに行きますので……」
小久保さんは誰も訊いてないのに、どこか慌てたように言う。
「また新作の執筆中なんでしょ?大変ねえ!
また食生活めちゃくちゃでしょう。
後で晩ご飯のおすそ分け持ってってあげる。
今日はスーパーで魚を分けてもらったから、今晩はブリの照り焼きとダイコンと揚げの含め煮だからね」
美絵さんは何気ないつもりで言って、小久保さんの背を叩いたのかもしれないけど。



