右隣のベランダ……つまりお隣さん……のガラス戸がわずかに開いてて、そこから誰かが顔を出してこちらを見てた気がしたけど。
あたしと目があった瞬間、その人は慌てて顔を引っ込めた。
夜というのに灯りもつけず、カーテンが引かれていたから詳しい顔つきなんか解らなかったけど。
何なのよいったい?
「あの……あちらに住んでる人はどういった方ですか?」
あたしが念のために訊ねると、美絵さんは我に返ったのか、恥ずかしそうに手を引っ込めてスーパーの袋を拾う。
「ああ、あちらは小久保正さん。
このアパートが出来て直ぐ引っ越してこられたお隣さんよ。
アルバイトしながら小説家を目指してるっていうから、不規則な生活でいけないって時々おかずをおすそ分けしたりとお世話してるの。
早くデビュー出来るといいわねえ」
その口ぶりからすれば、美絵さんとその小久保正さんの間には特に何もなさそう。
あたしは小久保さんがお隣さんという美絵さんの言葉で、あたしたちの側のベランダがやっと村田家のものだって気付いた。



