毒舌で二枚舌で二重人格の最低男。


婚約者がいるなら、あたしへの興味も薄れて万々歳だわ。


なのに……


どうして


心臓が掴まれたように苦しくなるんだろう?


「杏子お姉ちゃん大丈夫?顔色がすごく悪いよ。
オレおばあちゃんに言ってくる!」


博君はそう言うと、あたしが顔を上げる間もなく居間を出ていく。


数分もしないうちに博君はおばあちゃんと一緒に戻ってきた。


「杏子ちゃん、大丈夫かい?お布団を敷いたから今日はもうお休みなさい。歩けそうかい?」



おばあちゃんは気遣ってくれたけど、きっと今、あたしはすごく嫌な表情をしてる。


それは鏡を見なくても判ったから、あたしはおばあちゃん達の顔を見ないようにうなずくと、右手を支えにして体を起こそうとしたら。


急に目の奥がぐりんと動いたような不愉快さが起こって、体のバランスが崩れ落ちる。


おばあちゃんが何か言っていたような気がしたけど、あたしの意識は闇の中へ沈み込んでいった。