それから2時間ばかり経った午後11時半過ぎだったろうか。
俺がトイレに行くと、隣の浴室から湯煙が漏れだしていた。
親父が自分から風呂に入るなんて珍しい。
家もきちんとしたから、さすがに体を綺麗にして新年を迎える気か。
そんな風に考えながらトイレから出てきたとき。
すこし開いた脱衣所のドアの隙間から見えたのは、杏子の姿だった。
……図々しいにも程がある。
俺は苛立ちが最高潮に達し、無言で脱衣所のドアをわざと勢いよく開けた。
その音に驚いたのか、杏子は親父のものらしいバスローブを羽織りかけたまま、肩越しにこちらを見た。
「ちょっとナギ!今女の子が着替えてる最中なのに、どういうつもり……」
「出てけ」
杏子が皆まで言い終わらないうちに、俺はぴしゃりと言う。
どういう意味かわからない、という顔をした杏子に、俺は付け加えてやった。
本当に女はアタマが悪くて困る。
「出てけ、って言ったのが聴こえなかったのか、温泉卵アタマ。
この家からその足で今すぐ出ろ。
さもないと窓から叩き出す」



