「あたしは単細胞生物じゃないっての!
ゴキブリがなによ!
ぜ、絶対に負けないんだから!!
あたしがこのお家を徹底的に綺麗にするから覚悟しなさいよ!」
勇ましくもそう言った杏子はセーターの腕をまくり上げ、三角巾とエプロンを着けるとゴミやゴキブリとの戦闘に突入した。
あまりにガタガタとうるさいものだからか、途中で親父が何事かと顔を出したが。
鬼気迫る杏子のあまりの迫力におそれをなしたのか、早々に引っ込んでいった。
勝手にやってろ、と思って俺は一切手伝わなかった。
第一俺は頼みもしないのに杏子が勝手にやってるのだ。
それに――
何よりも、マモルの誘いを蹴って俺の家に来た杏子に対し、妙な苛立ちを感じていた。
マモルがあれだけ大切に選んだプレゼントを贈る機会を放棄した、という思いもあったが。
一番解らないのが、自分がどうしてこんなにもイラつくのか理由が全く判然としないからだった。
その苛立ちは、杏子に対してなのだと。それまでは判る。
しかし一番解らないのは、自分の心に渦巻く感情だった。



