そんな親父の繰り言は毎日のコトだから、俺は適当に流して2階に上がると、台所でやかんに水を入れて火にかけた。
隣の和室では親父がまたぼんやりとした目で、つけっぱなしのテレビを観てるんだろう。
くだらないバラエティー番組のわざとらしい笑い声が何度となく聴こえてきたが、親父の笑い声は一度たりとも聞こえはしない。
少し冷めた鶏飯弁当をレンジにかけ、沸いた湯でインスタントのカップ味噌汁を作ると、トレーに載せて和室に運んだ。
親父はチャンネルを変えるでなし、延々と暴露合戦にいそしむバラエティーが気に入らなくて俺がテレビを消しても、そのまま微動だにせず一点を見続けていた。
「親父、味噌汁できたぞ。冷めないうちに食べちまおう」
俺がそう言うと、やっと食卓に向き直って無言なまま手を合わせ頭を下げた。
「いただきます」
俺は親父のタイミングに合わせて言う。
親父の分まで。
食事中は特に会話がなかったが、親父の人が変わるのは。
「なに!?ケッペルケン詩集を借りれたのか!それは私も読めそうか!?」
本に関する話題が出た時だった。



