午後8時過ぎ。
正面のシャッターは閉まってるから、俺はカウンターに直接出入り出来る裏口を使って店内へ入る。
「親父、ただいま」
「ん……凪か……お帰り」
気のない返事をした親父は相変わらず裸電球ひとつを点けたまま、薄暗い中で売り物の本を読みふけっていた。
俺の親父はまだ40手前だが、長年の苦労がたたってか白髪が増え、痩せこけくたびれた顔つきと相まって、50歳にでも見えそうなほど老け込んでいた。
昔は限りなく大きく逞しく見えた親父の背中が、今では哀れなほどちっぽけに見えて。
俺は頭を少し振ると、手に提げた袋を親父の前に掲げてみせた。
「ほら、帰りに鶏飯弁当買ってきた。親父、どうせ晩飯まだなんだろ?
それと、インスタント味噌汁もある」
「ああ……そうするか。どうりで腹が空いたと思った。今日は昼飯も忘れてたな」
親父はぼんやりした目を上げ、やっと俺の方を見た。
「済まないな、凪。
いつもおまえには苦労をかけて……父さんがしっかりしていればよかったのにな。
情けない父で本当に済まない」



