事務所の中も埃一つなく、ピカピカに磨き上げられていた。
杏子が今日大掃除をしていったからだ。
何もかも整然と整頓され、きちんと収まるべき場所に収まっている。
それは俺が常日頃理想として杏子に散々言ってきたコトだから、寧ろこの状態が当たり前でなければいけないハズなのだ。
だが……
どうしたというのだろう。
その光景を見ているだけで
俺の心に空虚感が生じるのは。
薄暗がりの中で
どうして
もはや居ないやつの姿を
無意識のうちに
目で探していたのは。
あいつはいない。
それは頭で十分理解し納得した筈なのに。
どうして俺は
あいつのいたストレスの多い光景を思い浮かべるのだろう。
自分で自分が全く理解できず、俺は足早に手帳を取るとポケットに突っ込み、乱暴に鍵を閉めて走るように事務所から離れた。



