器の底を探る。

 残された濃厚なチョコレートを口にすれば、喉が異様に渇く。

 なかなか取れない最後のひとすくい。

 それを探って数分。

 前に座る、彼の電話が終わる気配はなかった。


「あははっ、そんなことないって」


 ナナメに腰かけて、私を視界に入れることなく、電話の相手に笑いかける。

 私の言いたげな目線に気づかないふりして、見えない相手を想っている。

 だから私は、器の底を探る。

 意味がないと分かっていても、すくえるかもしれない可能性を探った。

 底に向かうごとに細くなった器をえぐるように、底よりも大きいスプーンを突きいれる。

 黒い液体が揺れる。

 傾ければドロリと流れる。


 ちらりと目線をくれる、ささやかな気遣いが嫌だった。