「そう、ありがとう」

それに当たり障りのない爽やかな微笑みで答えると、キルバッシュは軽く手を上げ、扉を自分の名前のリズムでノックした。


すると、まるで自動ドアか何かのように、すぐさま両開きに開かれた扉にあたしは一瞬面食らう


ウェルシーは慣れている様子だったが…どうやら、キルバッシュは皆に相当一目置かれてるらしい



「……」

驚くあたしとは反対に、別にその光景を何とも思わないらしい二人は、何を気にする風でもなくスタスタとそのフロアに足を踏み入れて行った。


それに従いあたしも黙って入室すると、フロア全体に焚かれたムワッとするお香の香りや、仰々しく床や壁に書かれた聖なる使者の絵に嫌気がさす。



……あたしでこれくらいなんだから、きっとココに閉じ込められるヴァンパイア達にとっては、最悪の拷問部屋になるだろう



「例の彼は?」


「ココです」

開口一番、キルバッシュがそう尋ねるや否や、フロアの真ん中にドカンと置かれた巨大な何かに掛かる垂れ幕が取り払われた。


バサリと深紅のビロード製で出来た布が床に落下し、中から四方が3メートル近くもある巨大な檻が姿を表す。