「姉さん…本当に食べないの?」

心配そうな顔つきで、目の前に差し出された真っ赤なトマトに、あたしは無言で顔を背けた。


ヴァンパイアからの施し物など、死んだって絶対に手をつけない。



「ごうじょー…」

初めて聞くかもしれないメフィストの呆れた声にも、あたしは反応を示さなかった。



しかし、それよりも寒い。

マティーが、案の定用意したフリフリキラキラなドレスがお気に召さなかったあたしは、辛うじて着れる薄いワンピース状の布切れを纏っている。


マティーいわく、それは"ねぐりじぇ"と言うらしい。


そんなねぐりじぇを着て、乾いた風が吹きすさぶ屋外に出ているからこそ、あたしの体は凍えそうなくらい冷たくなっていた。



「姉さーん、そろそろ意地張らないで食べないと…死んじゃうよ?」

ヒョイ、とあたしの視界の前に顔を現して来ては、ホレホレとこれ見よがしにトマトを見せつけるのに、無言で振り払う。


その瞬間、小さな「あ」と言う声と共に、真っ赤なトマトが地面に落下し、見る影もなく無惨に潰れた。

中から真っ赤な果肉と金緑の粒子の液体を流れ出しているのを見て、軽い嫌悪感に襲われる。


それはまるで、生き耐えた人の屍のようで‥…