ジュル、と耳障りな水音が鼓膜の近くでよく響き、生気さえも吸いとられているのではないかと言う勢いで、メフィストの喉仏が上下にコクンコクンと動く。


飛びかける意識の狭間で、珍しくあたしの頭はパニックに陥っていた。



こんな…"こんな事"があってたまるか───…、と。


先刻前に下級ヴァンパイアに吸血された時には、ただの痛みと苦痛しか感じなかった。


けれど、今コイツから与えられている感覚は、それと全く正反対のもの……"いつも"のものとさえ違う、抗えない禁忌の感覚。



──…得てして、格式高いヴァンパイアは、人を巧みに惑わすと昔から伝えられている。


何故、メフィストがそんな能力を持ち合わせているのか、分からない…だが、確実にあたしの意識が吹っ飛ぶその瞬間は近付いていた。



『私がこうしている限り、他のヴァンパイアからしてみれば…君のゴートとしての血は、何の価値もなくなる』


散々言われて来たその言葉が真実か虚偽か、今まで確かめる術など無かったが……朦朧の狭間でポソリと呟かれた言葉が、皮肉な事にこの最期の時に真実を明るみにする。