菜緒子は菜束を病室の前に待たせて、病室へ入った。

すぐに出てくるところを見れば、荷物を置いただけ、のようだ。

そして菜緒子は軽く手を振って、廊下の向こうへ消えてしまった。

菜束は、緊張と動揺で心臓がバクバクなのを抑えようとして、深呼吸をする。


ガララ

扉を開けたらすぐの所にベッドが一つ。
そこに、夏実は居た。

「お姉ちゃん」

菜束がそう呼び掛けると、夏実はビク、と肩を震わせてこちらを見つめた。
驚かせたらしい。

「──…何の用」

久々に出した声だからか、夏実の声は詰まっているように思えた。

でも、喋ってくれた。



「言いたいことが沢山あるんだ。まずは、気付けなくてごめんなさい」

菜束は夏実に向かって深く頭を下げた。
目を閉じて。

「…自業自得だって」

「違うもん。お姉ちゃんは騙されてたんでしょ?」

「うん…そうだったね」

夏実は窓の外を見やった。

「私さぁ、こう…荒れてるじゃん?でもさ、男は近付いてくるもんなの。だからちょっと男とかどうでも良くなってた」

菜束はまだ理解出来ない故、黙って頷くことにした。


「そしたらさ、彼奴…転校してきたんだよね」