男の子は私に気づくとにっこり笑った。つい最近抜けたんだろう。前歯が一本なかった。
「おまんじゅうひとつください」
その子は慣れた口調で言った。

おまんじゅうをひとつ、小さな袋に入れてわたす。
「30円だよ」
すぐに男の子は10円玉を3枚、私の手のひらに置いた。

「はい、ありがとう」
私はそう言って笑う。
男の子は小さくおじぎをして走っていった。

手のひらに視線を戻す。
あの小さな手で、ずっと握っていたんだろうな。
10円玉はとても暖かかった。

(終わり)