室内は伯爵とあたし。給仕のための侍女と執事だけだ。なんて重苦しい雰囲気。息苦しいってきっとこういうことを言うんだ。
伯爵はこの空気を感じていないのか、優雅に微笑みながら茶器を傾けている。侍女も自分の仕事に徹して空気のようになっていた。
執事だけがもの凄い威圧感で立っている。責められてるわけでもないのに謝ってしまいそうな雰囲気だ。
「あの…伯爵?」
あたしはこの空気に耐えきれず、目の前の伯爵を見つめる。「どうした?」あまりにも不思議そうだから本当にこの空気に気づいていないのかもしれない。恐ろしいことに。
「あたしは…この屋敷で何をすれば良いんですか?」
「何かって?」
「仕事です」
「…仕事…?」
心底不思議そうな顔をされた。あれ? あたし、なんか変なこと言ったかな。
あたしはこの伯爵に尋常じゃない金額で買われたわけで。あたしは奴隷として買われたんだから肉体労働とかさせられるものだと思っていたんだけど。
「君に仕事をさせるつもりはない」
「……は?」
「そんなつもりで君を買ったんじゃない。そもそも、君を使わなきゃいけないほど人手に困ってるわけでもないしね」
確かにここの使用人のみなさんは完璧に職務を行ってるみたいですけど。
じゃあなんであたしなんかを買ったんだ?

