「靴擦れですか?」
「え?」

あたしの言葉に女の子は目を丸くした後、あたしの視線の先を追った。そして血が出てるのを見て、痛そうに顔を歪める。
彼女がまた歩き出そうとするので、あたしは慌ててそれを引き留めた。それからその場にしゃがみこむ。

「あ、ドレスが……」

裾が地面に付いたのを見て、女の子が慌てる。あたしはそれを押し留めて、彼女のドレスの裾に手をかけた。
慎重に持ち上げる。足首を異性に見せるのは淑女としてはしたないこと、と習ったばかりである。あたしは異性ではないけど、やっぱりここは気を使うべきだよね。
あたしは白いレースのハンカチを取り出し、一瞬躊躇った後、それを豪快に引き裂いた。

「あっ、」
「ごめんなさい。踵、上げてもらえますか?」

いきなりの行動に驚いたみたいだけど、素直に足を上げてくれた。あたしは素早く裂いたハンカチを靴底から踵にかけて敷く。そしてそれがずれないように押さえながら、足を戻すように促した。

「応急処置ですけど、これでさっきよりはマシ……いや、痛くないと思います」

危ない。つい言葉遣いが乱れてしまった。
女の子はあたしのことをまじまじと見た後、嬉しそうに破顏した。つい、その無防備な笑顔に見とれてしまう。

「ご親切にありがとうございます。今朝、卸した靴だったの。サイズが合わなかったのかしら。気がついたら痛くて困っていたんです。本当に助かりましたわ」
「いえ、全然……」

華やかな笑顔。返ってくる言葉は完璧な貴族言語だった。
あたしはなんだか急に自分が場違いな人間に思えて、慌てて頭を下げる。

「それじゃあ私はこれで……」
「あ、何かお礼をさせてください」
「お構い無く。私が勝手にしたことですから」

それだけ言うのが精一杯だった。まるでこそ泥のようにそそくさとその場を立ち去る。
後ろで彼女が何かを言っている気がしたが、あたしは足を止めなかった。