夕食を済ませ、二人で夕食後のお茶とデザートを食べる。伯爵はなぜか長ソファーにあたしを座らせ、その隣に自分も座った。
近いのはなんでだろうか。問うように伯爵を見たけど、にっこり笑うだけだった。……誤魔化されたような気がしたのは何でだろう。

「週末、公爵家の舞踏会に行くことにした」

その言葉に顔が固くなるのが分かる。舞踏会。考えただけでちょっと憂鬱になった。
伯爵はそんなあたしの考えを読んだのか、伯爵は慰めるように頭を撫でる。そのことに、少し心が温かくなった。

「公爵は見た目や身分で判断する人じゃない。もちろん出入りする人間も良識のある方ばかりだ」
「うん……」
「嫌な思いをしないよう、しっかり僕がそばにいるから」

伯爵はただ微笑む。その笑顔にあたしはちょっと困った。
優しさに溺れそうになる。その笑顔に囚われそうになる。
伯爵のこの行動に深い意味はないと思うけど、あたしの心臓はいちいち反応してしまった。その度に自己嫌悪に陥った。
伯爵のこの行動は慈善以外のなんでもない。だからこんな風にドキドキするのは間違ってるのだ。

「それにしても……」
「え?」

あたしが物思いから我に返ったとき、伯爵は難しい顔……というよりは不機嫌そうな顔をし宙を睨んでいた。
その理由がはっきりと分からないあたしは、ただ首を傾げる。それに伯爵は困ったように笑うだけ。

「ちょっとね、」

そう言って伯爵はブランデー入りの紅茶を口に含む。なんとなく不機嫌そうに思えたけど、聞くことはなんだかできなかった。
伯爵は親身にしてくれる。だからあたしはついつい、その優しさに甘えてしまう。
だけどあたしは奴隷階級出身で、伯爵に莫大なお金で解放された。そう思うと、あたしは素直に伯爵との距離を詰められなくなる。

――伯爵はあたしのことをどう思ってるんだろう。

絶対に聞けないそんな疑問が、心にポツンと浮かんだ。