海の方から生ぬるい浜風か吹いてきて

僕の全身にまとわりついてくる

昨日小遣いで買ったばかりのピンクのTシャツは

早くも汗を吸い込んでベタついている


僕は袖をたくしあげてズボンのポケットから取り出したタバコに火をつけた


風の音

バイクの排気音

誰かの笑い声

遠くで車のクラクションも聞こえてくる

4年前に廃業したフェーリー乗り場跡地

建物はすぐに取り壊されたけど、敷地は放置されたままになっている

色んな年代の夜行性の人達が集まる溜まり場だ。


シンちゃんに初めてここに連れてきてもらったのは

中学最後の夏休み初日の夜だった。

正直言うと最初は凄く恐かった

突然聞こえてくる奇声のような笑い声

甲高いバイクの排気音と鼻につく排気ガスの匂い

明らかに自分が居るべき場所ではないような気がして

僕はずっと緊張してその夜を過した。


それでもシンちゃんは本当に楽しそうに色んな話をしてくれた

知らない年上の先輩達の輪の中に入っていったり、

原付に乗って走り回ったり

僕の知ってるやんちゃなシンちゃんではなくて、

凄く大人びて格好良く見えた。


その日以来、僕は毎晩親が寝るのを待って家を抜け出して

ここに来るようになった

毎晩、毎晩、僕らは空が青白くなるまでここで過すようになった。

僕とシンちゃんとマユと3人で。