無口になった彼女に、
気付きもせず…

「…一目惚れしちゃったのは、
そっちだったね?」

囁いた声で、
漸く焦り出す。

「えっ?否、違うって」

彼女の手を取る一瞬前に、
立ち上がった。

「もう帰る」

出入口に向かった彼女を、
追い掛ける為に立ち上がった俺に運悪くウェイトレスが近付いた。

「うわっ悪い」

ぶつかる寸前に体勢を立て直し、女の両手にある品を支えた。

やっぱりだ…。
カテキョのアイツの顔が鮮明に、あたかも此処に居る様に浮かぶ。

然し、
今はそれどころじゃない。
追い掛けて欲しそうに、
立ち止まる彼女に今度は、
気付かない訳にはいかなかった。

「直ぐ戻るから置いておいて…」

言い終わる前に、
体は動いていた。