マンションの下で車を停車させ、シンちゃんは一度息を吐いた。


そして視線を滑らせるようにして、こちらに向ける。



「俺はな、お前が本気で惚れて、相手もお前に本気なら、それが勇介だろうとヒロトだろうと、全然別のヤツだろうと良いんだ。」


でも、と彼は言う。



「体から始まる関係だってアリだと思ってるけど、お前がセフレ程度にしか思われてないなら、俺は許せない。」


シンちゃんは更に眉を寄せ、あたしは相槌すらも忘れていた。



「奈々にはまともな恋愛しかしてほしくねぇし、俺はお前が幸せな結婚するまで見守らなきゃいけない義務もあるから。」


彼は多分、あたしの出世の秘密を知っているのだろう。


でも、ママもシンちゃんも絶対にそれを口にすることはないので、聞けないかった。


血液型からしても、シンちゃんが“父親”とは違うことだけはわかっているけど。


ならば、義務とは一体何なのか。


いくら友人であるママの子とはいえ、やっぱりこの異常なまでのあたしに対する過保護っぷりは、何かあるのだろう。



「勇介は別に、悪いヤツじゃないよ。」


でも結局、そんなことしか言えなかった。



「送ってくれてありがとう、シンちゃん。」


「…おう。」


「じゃあね。」


そしてあたしは車を降りた。


彼らが言わないということは、あたしが聞いたって喜べるような内容ではないからだろう。


あたしを想って隠してくれているのなら、聞かない方が良いのだと、いつも思う。


今日の夜空は曇りがちで、星のひとつも見られなかった。