眠ってしまいそうなほど、バスの揺れは心地が良かった。


窓枠からの景色はいつも変わることはないけれど、人の少なくなったこの時間帯が好き。


意味もなく携帯を開き、時刻を確認してみれば、とうの昔に遅刻だろうが、今更気にすることもない。


ゆっくりと車体にはブレーキが掛かり、バスは止まったと同時にプシューッと空気の抜ける音が響き、ドアが開く。


立ち上がり、あたしはそれから降りた。



「天気良いなぁ。」


春風はいつの間にか、柔らかくもあたたかいものに変わっていた。


それに撫でられながら、校門を抜け、グラウンドを歩く。


どこからともなく聞こえてくるホイッスルの音、窓の開いた教室からは、微かに授業中なのだろう、先生の声。


そんなものに耳を傾けながら、だけども急ぐわけでもなく、校舎に入り、向かうのはいつも、購買。


遅刻したらまず、飲み物とパンを買い、腹ごしらえをするのが日課になりつつある。



「おばちゃん、おはよ。」


購買のおばちゃんと軽く挨拶を交わし、いつものお願い、とあたしは言った。


もはや常連なので、チョコチップメロンパン、なんて言わなくてもわかってくれるのだ。



「また寝坊しちゃったの?」


おばちゃんは、責めるでもなく笑ってくれる。


本当は人混みが苦手だからわざと遅れてきてるんだけど、まぁね、と曖昧に返しておいた。


パンの並べられているガラスケースに寄り掛かるように立っていると、後ろから靴音が響いたのは、それからすぐのこと。


振り返ってみれば、そこに立つ人物の姿に何故だか笑えた。



「おはよう、ヒロト。」