そのまま本当にお腹が痛くなってきたので、保健室に逃げ込んだ。


ついでに寝不足も重なり、ベッドで眠ったのだが。


柔らかい風に撫でられながら、人の気配を感じたのは、それからどれくらい経ってからだったろう。


んんっ、とくぐもった声を上げると、ミシッとパイプベッドの軋む音がする。


薄目を開けようとすると、顔の前に影が出来、目を開けた時には驚いた。



「…勇、介…?」


勇介が、あたしの顔横に腕を突き立て、「ん?」と覗き込んでいるのだ。


状況さえ理解出来ないが、とりあえず近い。


と、いうか、こいつはいつも突然に現れ、そして意味もなく顔を近づけてくることが多い。



「…何やってんの?」


「奈々ちゃんが無防備に寝てるの発見して、観察してたんだよ。
ついでに誰にも襲われないように見張ってたの。」


ベッド横にはパイプ椅子、そして彼の手には漫画本。


つまりはあたしが寝てる間、彼はずっとそこに座ってたってことだろうが。


どうやら寝るための保健室ですら、あたしにとっては安息の地ではないらしい。



「…あたし、無事?」


「俺は何もしてませんから。」


そう言って、やっと勇介は体を放してくれた。


思わず安堵のため息を吐き出しながら、あたしも上体だけを起き上がらせる。



「相変わらず、危機感なさ過ぎ。」


ふわりとカーテンがはためき、風が流れる。


勇介が腰を降ろしたパイプ椅子がギシッと軋み、彼は柔らかく笑いながら足を組んだ。