「あたし、雨の日が嫌いなの。」


「うん。」


「トラウマだから、大嫌いなの。」


「うん。」


何故こんなことを言葉にしていたのかはわからない。


でも、気付けばそれは口をついていて、なのに勇介は理由を問いただすでもなく、相槌ばかり。


彼は一度息を吐き、奈々、とあたしの耳元に言葉を添える。



「俺も雨は嫌いだよ。」


「うん。」


「だからきっと俺達は同じなんだね。」


何が同じなのかはわからない。


でも、不思議とひとりぼっちじゃない気がして、だから自然と力が抜ける。


名前さえ定かではない男なのに、こうも安心させられる理由はわからないけど。



「ありがとう。」


あたしは言った。


すると勇介はやっと体を離し、短くなった煙草を消す。



「風邪引くから。
奈々、シャワー浴びてきなよ。」


きっとこの男は、その間に本物の魔法使いのように消えてしまう気なのだろう。


あたしは口元だけで笑い、背を向けた。



「さよなら、魔法使いさん。」