驚いて、思わず足を止めてしまえば、手を繋いだままの勇介も、こちらを振り返るようにして足を止める。


なのに彼は、



「でも、この世の中に愛なんてものはないけどね。」


ひどく冷たい瞳があたしを捕える。


確かにあたしも、愛というものがよくわからないけど、でも、そんな顔した勇介にぞくりとした。



「それってお父さんを憎んでることと、何か関係があるの?」


気付けばあたしは言葉にしていた。


一瞬、目を見開いた彼は、視線を落とすように口元を緩める。



「…ごめん。」


やっぱり沈黙に耐えられなくなったのはあたしの方。


勇介は自嘲気味な顔を向け、「帰ろうよ。」と言うだけ。


きっと、あたしが触れているのは勇介の外側の部分なのだろう、だからなのか、悲しくなる。


聞かないで、と言うように、彼は再びあたしの手を引いた。


良いけどね、なんて思いながら、無言のままにバイクの後ろにまたがる。


少しばかり名残惜しい夜景に別れを告げ、あたし達は帰路についた。


勇介はうちのマンションの下まで送ってくれ、そしてあたし達はそれぞれの生活へと戻ったのだ。