「樹里ちゃん、何かすごいね。」


勇介はそう、空を仰いだ。


命がどれほど重いものなのか、あたし達は知ってるつもりだ。


だからこそ、ちゃんと決断をした彼女は、きっと強くなったのだろうと思う。



「樹里はきっと良いお母さんになるよ。」


「でも、寂しいんでしょ?」


見抜いている勇介には、相変わらず困ってしまうけど。


それでも、永遠の別れなんかじゃないし、だから笑っていたかった。



「大丈夫だよ、奈々には俺がいるから。」


「それとこれは別でしょ。」


「うわっ、俺今めちゃくちゃ格好良いこと言ったのに。」


「だからぁ、格好良いか悪いかは、あたしが決めることなんだってば。」


そう言って、ふたりで笑った。


勇介の優しさは、いつも言葉よりもっと深いものがある。


例えばお父さんと別れて懸命に暮らしていたとしても、彼はそれを辛いことだとは思っていない。


昔よりずっと笑顔が柔らかくなって、そこには人を安心させる力がある。


そういう生き方には、随分励まされることが多いのだ。



「俺も早く一人前になんなきゃね。」


でも、焦ることはもうやめた。


ゆっくりと、それでも確実に前に進もうと決めたのだ。


誇らしい友達にも胸を張れるように、何より自分たち自身のために。