「何かあったらさ、いつでも言ってよ。
もしもコイツが浮気したら、あたしがぶん殴ってやるからさ!」


あたしが言うと、



「それは俺も協力するよ。」


と、勇介が笑う。


俺もー、なんてスッチまで言い、ヒロトは口元を引き攣らせていた。


いつか、悲しみに暮れていたはずの喫茶店で、こうやって笑える日が来るなんて思わなかった。


春の陽気は優しくて、だからふたりの幸せと、生まれ来る命の無事を願った。



「でもさ、ヒロトが父親とか、実感ないよね。
何か色んな意味で心配なんだけど。」


笑ってそう言ったスッチは、立ち上がる。



「俺、バイトあるしそろそろ帰るわ。」


彼は未だ半べその沙雪の手を引き、じゃあね、なんてすぐに店を出た。


きっとこれから、彼女を慰めてあげるのだろう。



「なら、俺らも帰る?」


勇介も言う。


こくりと頷くと、奈々、と樹里に呼び止められた。



「ありがとね。」


「樹里こそ、体大事にね。
アンタならきっと、幸せになれるよ。」


そこにはわだかまりなんてものもなく、ふたりに見送られ、あたし達は店を後にする。


吹き抜けた春風は、ひどく優しいものだった。