「でもさ、そういうわけにはいかねぇだろ、って。」


ヒロトは言う。



「責任とか言うつもりねぇけど、勝手に決めてんじゃねぇよ、って。
俺だってそこまでひどい男じゃねぇし、一応“父親”なわけじゃん?」


恥ずかしいのか、不貞腐れながらの彼の言葉。


この人らしいな、とあたしは思う。



「別にさ、元々学校なんかどうでも良かったわけだし。
樹里だけ辞めさせて自分は卒業しようなんて思わねぇし、俺働くから、って。」


18になったら籍を入れるのだと、彼は言う。


今はまだ一緒に暮らせるほど経済的に余裕はないけど、でも、子供が生まれるまでには、なんて言うヒロトの瞳は、未来に夢を馳せているかのよう。


沙雪はただ黙ったまま、顔を俯かせて聞いていた。



「あの時のさゆの決断、あたし責めるつもりないし、否定なんて絶対しないよ。
でもね、だからこそ、余計に産んであげたいって思ったの。」


そして樹里は息を吐いた。



「名前はさゆに付けてほしい。」


ヒロトもまた、その言葉に頷いた。



「この子はね、あたし達の子だけど、ここにいるみんなの子でもあると思ってる。」


沙雪は肩を震わせた。


スッチはその背中をさすり、泣くとこじゃないっしょ、なんて言う。


祝福されるべき命を前に、あたしまで泣きそうになってしまう。



「うちのババアもさ、再婚することになったんだよ。」


更に口を尖らせたヒロトは、



「俺、今までガキみてぇに反対してたけどさ、そんなんじゃダメだってコイツうるせぇし?」