樹里とヒロトが学校を辞める?


突然に、しかも一体何を言い出しているのかがわからない。


驚いたように目を丸くしたまま言葉の意味を探そうとするが、でもふたりは顔を見合せて笑っていた。



「つーか、子供出来てさ。」


ヒロトはそう言って、取り出した煙草を机の上でトントンと遊ぶ。



「で、産めよ、って。」


「まぁ、そういうことに決めたのよね、ふたりで。」


樹里はまとめるように言うが、でもあたし達は話についていくことすら出来ない。


沙雪はただ戸惑うように、瞳を揺らす。



「…ちょっ、待ってよっ…!」


奈々、と勇介は、そんなあたしを制止した。



「奈々にもだけど、特にさゆには、ちゃんと聞いてほしいの。」


樹里は真っ直ぐに、彼女を見据えた。


あたしはそれ以上口を挟むことさえ出来ず、不安に襲われる。



「春休みに入ってすぐ、子供出来てるのがわかったの。
迷ったのは確かだけどさ、あたしは例えヒロトが反対しようと、ひとりでも産むって決めたんだ。」


樹里はそう、まだ平らなお腹を愛しそうに撫でた。



「ずっとさ、何やってても寂しかったけどね。
でもお腹に子供いるってわかって、そしたら不思議とひとりじゃない、って思えてね。」


もう寂しくなくなったんだ、と彼女は言う。


樹里は絶えず拭えない孤独と闘っていて、それはヒロトといようとも払拭出来なかったのだろう。


でも、まだ見ぬお腹の子の存在は、とても大きいものだった。



「だから、どうしても産みたいって思ったの。」