明日になれば他人のこの人なのに、何故こんなあたしの戯言に耳を傾けてくれるのだろう。


右の耳が嫌に熱を持っている気がして、だからなのか本物の魔法使いに捕えられた気がした。



「じゃあ、信じるよ。」


例えそれが嘘だとわかっていないがらも、期待してしまう自分がいる。


勇介の吐き出す煙草の煙がシャンデリアの灯す光に溶け、あたしはそれを仰ぎ見た。



「ねぇ、魔法使いって何でも出来るの?」


「お願い次第だけどね。」


ならば、また会いたい、と言ったらどうなるだろう。


なんて、馬鹿みたいだと思い直した。



「満天の星が見たい。」


勇介はくすりと笑い、その吐息が耳元をくすぐる。



「そんなんで良いの?」


「それが良いの。」


言ってみれば、彼は可愛いね、とうなじの辺りに唇を添える。


今度は随分と曖昧な魔法使いだ。


だからまた切なくなって、勇介、とあたしは彼のそれを制止した。



「魔法使いって人生楽しいの?」


「楽しいと思う?」


「わかんないから聞いてるの。」


視線を滑らせてみれば、勇介は困ったように笑って見せた。


この人はきっと無意識なのだろう、それ以上踏み込まれたくないと思うといつも、同じ言葉を返し、笑って誤魔化す。


優しさと冷たさの中に少しの悲しみを混じらせ、勇介の瞳は揺れ動くのだ。