「誇れることだ。」


「ありがとうございます。
それも全て、土屋さんのおかげだと、俺は思ってますから。」


「わたしは何もしていないよ。」


「いえ、あなたが静香を支えてくれていたからですよ。」


ほら、とシンちゃんは、ママの背中を押した。



「土屋さん、例え何十年掛かろうとも、頂いたお金はお返しさせてください。」


彼女はそう言って、顔を上げる。


あたしと勇介は、それを見守ることしか出来ない。



「あれはもう、あなたのものです。
だから返そうなんて考える必要はない。」


「でも、もう大丈夫ですから。
ただ、自分の弱さに負けたことを悔み続けています。」


本当に必要がないなら、口座を破棄すことだって出来たのに、とママは言う。


身重の体ではろくに働くことさえ叶わず、そのお金に頼ってしまっていた時期があったこと。


そしてどこかでそれに甘えていて、でも今は手をつけていないのだと、告白した。



「あなたはあの頃から変わらず、正直で、そして芯が強い方だ。
ナナさんはわたしの一方的な願いを聞き入れてくれただけなのだから、悔むことなんてないんです。」


ふたりの過去に、何があったわけでもないはずなのに。


なのにこれほどあたたかく感じることはなくて、シンちゃんまでも、涙ぐむような顔になる。



「ご結婚は?」


その問いに、ママは首を横に振った。



「あなたにお世話になっている以上、そんなことを考えたことは一度もありません。」