「奈々と知り合ったのは、本当に偶然だったんだ。」


勇介は言った。



「でも、お前はわたしを恨んでいただろう?」


「そうだね、アンタは俺ら家族を裏切ってたと思ってた。
今だってアンタのことを許せるわけじゃないけど、でも知ることが出来て良かったとは思ってるから。」


そうか、とお父さんは押し黙る。


勇介もまた、きっと過去との狭間で葛藤していて、でも許したいと心のどこかで思っているのかもしれない。


彼が今までどれほど苦しんでいたのかはわからない。


けれど、一生誰かを恨むことでは何の解決にもならないのだろうから。



「俺らのことより、静香さんと話してあげなよ。」


勇介が言うと、お父さんは申し訳なさそうな顔をして、今度はまたママ達の方に向き直った。


再び緊張の帳が下りる。



「病院で、一度だけ会ったね。」


はい、とシンちゃんは言う。



「あの頃、ナナさんはバーテンの友人がいると言っていたけど。
それがキミで、こんなに立派な店を持つようにまでなっているなんて。」


それぞれが年を取ったということかな。


そう、口元を緩めるお父さんは、懐かしそうな顔をしていた。



「必死でした。
静香が自分の所為で俺まで夢を捨てたなんて思わないように、この街で大成したかったんです。」


それは、初めてシンちゃんの口から聞く、本音だったろう。


ママへの想いは、十分すぎるほどに伝わってくる。